ベートーベンの「合唱幻想曲」

合唱,ピアノ,オーケストラという編成の曲.第九の前の試作品ともいわれるこの曲は,ベートーベンの「こうしたら面白いんじゃないかな?」「こうやったらもっと幸せかなあ?」と色々試している雰囲気が全体に感じられてとっても楽しい.

曲の初めの方でオーケストラとピアノの音が混ざっていくその様子は,まるでその場でベートーベンがピアノで作曲していて,作曲しているベートーベンのピアノの音とベートーベンの頭の中で聴こえているオーケストラの響きを同時に聴いているよう。

 

曲の最初は,しーんとした中にピアノの音がやってくる。

でも、はじめは、この音楽がどこに向かっているのかわからない。

まるで夜の道をだれかについていきながら歩いているように、期待しながら、不安になりながらどこかに向かっている。

その中で、ふいに面白げなメロディーがやってきて,お,何かはじまるぞ!と思わせたり、また静かになったりしていく。

 

そこに,徐々に,さりげなくオーケストラがピアノの音にまじりあってくる.その中で、あたりがだんだん明るくなってきて、どこか幸せそうな場所に向かっているのだということが見えてくる。

 

ピアノとオケは,はじめのうちは最初はくすくすとお互いに楽しく幸せなおしゃべりをしている.そのうち,ピアノがこうかな,と弾くとオーケストラがこんなのはどう?と返して,オーケストラとピアノが楽しくセッションしているみたいになってきて…

さらに,オケがみんな行くよー!と勢いに乗って引っ張ったかと思えば,ピアノがいやいや,こんなのはどう?と言ってくる.そのやり取りが,だんだんと幸福に満ちた暖かな世界を作り出していく.その中に,光の飛沫のようなきらきらっとしたトリルが入る.そこは第九のような喜びの世界なのだけど,第九が人類愛や喜びを表現しているのなら,合唱幻想曲は体の底からじわじわとこみあげてくる嬉しさのよう。

 

そして,最後には合唱も加わって,更なる喜びの力が沸き上がって,それらがどんどん力を持って,より高い喜びの世界へと押し上げていく。そう、いざなうのではなく、終盤に向かうにつれてどんどん強くなる喜びの圧力をもってして私たちをより高い喜びへと押し上げていく.

 

今回は、レイフ・オヴェ・アンスネスとMahlar chamber orchestraによる

「合唱幻想曲」を聴いて書きました。

 

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